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 2008年8月1日は、稀代の作詞家であり小説家でもあった阿久悠氏、昨年来のご命日である。その日に合わせて当夜は「日本テレビ開局55周年記念番組 ヒットメーカー阿久悠物語」(日本テレビ/2008年8月1日放送)、阿久氏の生涯を縦軸に昭和の歌謡曲黄金時代および、テレビ黄金時代の貴重なエピソードを横軸に張巡らせて。

 放送前より、非常に楽しみではあったが実際、出来上がりを見てみると、致し方なしというか、さすが膨大な作詞数。作詞家以前の放送作家時代も少しだけ描かれている分、到底時間枠には収まりきらない分量。これを無理に枠には収めようとするから、結局は、阿久氏の生き様というよりも、1960〜70年代の歌謡史を時系列に並べた程度に終わってしまったという印象が残る。それと、日本テレビの開局記念番組ということで、阿久氏が企画・構成、さらには審査員として出演者でもあった、かつての人気オーディション番組「スター誕生!」(日本テレビ/1971〜1983年)時代のエピソードが中心となっていた。もちろんこれはこれで、同番組初の合格者となった森昌子以来、山口百恵引退、ピンクレディー解散へと至る80年代初頭まで阿久氏を中心とした歌謡史、芸能史、網羅。けどやっぱり、これも時系列に留まっている。もちろん当時の貴重な映像も交えて紹介され、幾分の生々しさも伝わってくるが、個人的には、全ヒット曲を押さえるよりも、、数曲程度にしぼって、その楽曲が誕生するまでの阿久氏の例えば葛藤なり、秘めたる思いなど、周辺の状況を含めて描いても欲しかった。

 今回のように「スター誕生!」を中心に描くなら、その中心にいた阿久氏にとって最もドラマチックであろうくだりは、山口百恵の合格があって、その後に続いたピンクレディーの誕生からピーク…時代的にいえば1973(昭和48)〜1978(昭和53)年ごろだと踏んでいる。

 掻い摘めば、山口百恵のデビューを受けて昌子・淳子ととの「花の中3トリオ」へ結実。ところが山口百恵のデビューに関してはオーディションの段階で阿久氏の審査評は、当人は好意的のつもりながら、山口百恵にとっては、後々の著書で告白するなど、あまり良い印象には取れなかった。逆に番組初期のいわゆる功労者ともなる、森昌子、桜田淳子に関しては一連の楽曲を手掛けるも、山口百恵の楽曲に関しては作詞が千家和也氏に委ねられる。千家氏と、「スタ誕」」審査員でもあった作詞家・都倉俊一氏は、宇崎竜童・阿木耀子コンビを迎えるまでの百恵番、ゴールデンコンビとなる…。その後に番組からピンクレディーが誕生する、阿久氏は都倉氏とのコンビで一大ムーブメントを巻き起こす、その一方には絶えず、山口百恵が独特のオーラを放ちながら拮抗する…。レコード大賞を賭けた「ピンクVS百恵」対決の勃発…楽曲でいえば「UFO」VS「横須賀ストーリー」は1978(昭和53)年大晦日のレコード大賞、その頂点を迎える。また、この78年より遡ること阿久氏は、1976(昭和51)年「北の宿から」(都はるみ)1977(昭和52)年「勝手にしやがれ」(沢田研二)と来て、「UFO」でレコ大三連覇に大手。一方で百恵陣営追撃が続くも、結局、「UFO」で三連覇を達成したところでひとつの結果を迎える。つまりは、自身が企画した「スター誕生!」から生んだ逸材を、阿久氏は別の逸材陣営として阻止し続けたことにもなってしまった。結局、山口百恵は、輝かしい軌跡を残しながらも、各大賞無冠。しかも、ついぞ因縁の阿久氏作品を手掛けぬまま、芸能界を引退してしまう…。

 阿久悠という大作詞家を軸に、劇的なまでに繰り広げられた一大歌謡絵巻。もちろん、これらの秘話は後のあらゆる著書で知ったところ。もちろん、当夜の番組でも描かれてはいたが、やっぱり、散漫な印象に終わってしまった。これらのエピソード以外にも知られざるドラマチックな物語は存在したであろうが、やっぱり、2時間半には到底詰め込めるわけがない。こういう伝記ものはつくづく難しいものやなぁ、と。

 仕方がないので、改めて。去年の暮れに買った、こちらの文庫本を引っ張り出して再読。

夢を食った男たち―「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫 あ 8-5)夢を食った男たち―「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫 あ 8-5)
(2007/12/06)
阿久 悠

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 その表紙からご覧いただいても分かるように、メインはやはり「スター誕生!」である。この表紙のロゴが懐かしくて、思わず購入した次第であるが、森昌子デビューから、続々と番組より誕生した歌手たち。中3トリオ、ピンクレディーを筆頭に、なかには様々な紆余曲折を経て、役者に転身した者、果てはデビューはしたもののヒット曲にも恵まれず芸能界を引退してしまった者…さまざま。番組にかかわった、また人生を左右された者たちへの、阿久氏自身の時には自戒の念なども込めながら、分け隔てない愛情や思いがつぶさにメッセージとして綴られている。

 また、スタ誕に関しては、番組のもうひとつの名物コーナーであった、司会の萩本欽一氏による『欽ちゃんコーナー』との、ひとつの葛藤のようなものも語られている。片や真剣なスター発掘。片やお遊びコーナーでありながら、独自の笑いの信念を貫きつつ、それでいて視聴率獲得の中核的存在として。お互い、領分をわきまえつつ、最後まで直接衝突はなかったとしても、共に人気番組へと成長させようという思いは同じ。後にさわやかな形での打ち解け合いがある…。

 そんな「スター誕生!」を中心に、その前後内外の、さまざまな歌手に楽曲…ヒット曲を生み出すに至る、膨大な出会いや因縁が阿久氏視線、ご当人の変わらぬ信念と共に、描きつくされている。

 リアルタイムも怪しい時代の楽曲群。けれども未だにラジオやテレビ、あちこちからで、名曲は残った。うっすらぼんやりな記憶の確認もあり、発見もあり。何でもかんでも映像化されて処理されるよりも、それぞれのエピソード、こうして手元に残る圧倒的内容量の著書のほうが、より一層、遥かな想像力を増し、往時の黄金時代、ますます思いを馳せてしまうのだ。
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